当時十七歳の時の話。まだ残暑が続く、夏休みが終わってすぐの頃。 俺は昔からの友人K、そしてMと一緒に近所の公園でダベってた。 まぁ高校生にありがちな、くだらねー下ネタで盛り上がっていたんだ。 その話の途中、Kがニヤニヤと笑いながらわざとらしい咳払いをしたんだ。 なんだなんだと俺とMは話を中断して、Kが話し出すのを待つ。 こっちが次の言葉を待ってるのに、Kは堪えきれずにクスクスと声に出して笑いやがった。 俺「んだよー。早く言えよぉ」 M「そーだぞテメェ。気になるじゃねーか」 K「まぁまぁ落ち着け諸君。我輩はこの夏、重大な進歩を踏襲してきたのであーる」 冗談を言う時とか、大げさな表現を使いたい時、Kは必ず自分を我輩と言った。 もーその時点で俺とMのテンションダウン。Kの「我輩」は大抵ロクな結果を出さない。 俺「それ、八割方冗談だろ。はいはいはいはい」 M「んだよガセか、つまんねー。はい次の嘘をどうぞ?」 K「お前等……人の話ぐらいちゃんと聞こーぜ……。 ま、俺の心は海よりも深いからキニシナイ。よーく聞けよ、なんとな……」 K「俺に…… な ん と 彼 女 が で き ま し た !!」 俺「な、なんだってー。それはオメデタイ。(ここまで超棒読み) Mさん、メルトダウンは何時頃だと推測されますか?」 M「(別れるのは)一週間の間に変化がありますね。破局確率は80%。 ……恐らくKの話を聞いた途端、破局の角笛が鳴り響くことでしょう」 言い忘れていたがKとMと俺は幼稚園の頃からの悪友だ。 その程度の事実、先がどうなるかぐらい解りきってる。 Kはお調子者だから、仲良くなれても即効で別れると踏んだんだ。 なにせ以前の彼女が破局まで二週間だったからな。(その前は三日だった) それでも黙ってりゃ顔だけはイイから始末に困る。 K「オイオイオイ、マイフレンズ。リアクション違うだろ? そこは素直に驚くところだろ? 歯軋りするほど羨ますぃところだろ?」 俺「ほうほう、それは彼女居ない暦=年齢の俺に対するあてつけでございまするか。死刑決定」 M「てめーは俺を怒らせた。とりあえず死に晒せ」 K「おうシーット。これだから君達は困る。とりあえず聞いてくれよぉ」 まぁそれでも一応は聞いてやるのが友人と言うものだ。 と言う事で、俺とMはKの話を聞いてやることにしたんだ。一応。 その内容を掻い摘んで言うと、 ・Kの兄貴の車で山でキャンプしに行った時にナンパしたら成功した。 ・そのままキャンプ場でセクロスまでやっちまったそーだ。 ・単にそれで終わるかと思ったら、趣味とか話とかで意気投合しまくり。 ・ケータイのアドレスと電話番号を交換。それから毎日かけまくり。 俺「フーン。そりゃよーございましたねぇ」 M「てか、山でナンパしたのは良いかもしれないけどよ、彼女との距離どんぐらいよ」 俺達が住んでいる市は山よりも海の方が近い。 K「ちょっち遠いぐらい。まぁ、俺は彼女が好きだから良いし、別に距離なんか関係ねーよ」 Kにもようやく尻に敷かせることが出来る彼女が出来たか。 なんてKをからかって、そろそろ帰ろうかとMが言い出した時、 ちゃーちゃちゃちゃらりーらー♪ Kのポケットから着信音が鳴り響いた。 おやおや愛しの彼女って奴ですか? これだから貴様のような奴は……。 K「もしもし? あ、○○ちゃん? うん、うんうん、あははうんうん」 彼女に対して凄い嬉しそうに話しかけるK。思ったよりも熱愛だ。 ふと、Mが顰め面しながらKの電話に耳を当てるようにした。 Kは全く気にしない様子で話を聞かせてる。身動き殆どしてないから丸聞こえだろう。 どうせ聞いてもノロケだけだろうって俺は思って遠目で見てた。 するとMが突然、Kの肩を思い切り掴んだ。 M「……おいK、電話を切れ。……早くっ」 K「あ、ちょっとまって。ごめんねー」 まぁ当然Kは不機嫌そうな面になってMを睨んだんだ。 ケータイのマイク部分に親指を当てて隠して、Mと向かい合う形でKは言った。 K「んだよ……お前、俺と○○ちゃんとの仲裂こうってのか? 邪魔すんじゃねーよ」 M「ちょっと聞かせろ。変なことをする訳じゃない。その指押さえたままで良いから」 K「なんだよ……」 冗談を言い合うのは良くあるんだが、滅多に激昂とかしないんだ。お互いに。 まぁ本気で馬鹿にされた時はあったけど……これは無い。 ともかく、それを解ってるKは親指でマイクの所抑えたままMの耳に当てた。 M「……おい、やべえぞ」 Mの顔が凄い不機嫌面だ。眉間に皺寄せまくり。 いくら残暑が続いても、サッカーとかしててもMはあまり汗かかない。 なのに、今に限ってダラダラダラダラって汗流れまくってる。 おまけに背中の白シャツがじっとり湿って透けて見えた。なんだよそれ。 K「……何が?」 M「商店街とか、人通り多い所に居るのかと思ったら違う。それはヤバイ、早く切れ」 K「何か、変か? だって、つーかさ……」 M「早く!」 K「チッ……」 Kは、それだけ言うといきなりケータイを切った。 Mが何も言わない、でも物凄く怒った表情でもう一度Kの肩を掴んでいた。 K「……説明しろよ。冗談だったらマジで殴っかんな?」 M「その前に電源切っとけ」 K「……分ったよ」 電源を切ったのを確認すると、Mが溜息混じりに言った。 M「……聞いてる間、滅茶苦茶頭が痛かった。マジ鼻血出そうなぐらい。 よく聞き取れなかったけどよ。……あれ、マトモな人間の声じゃねえよ」 K・俺「ハァ?」 M「だから、霊とか、そういった類の奴だよ」 俺とKが二人して、何だそれって顔をした。 Mが霊とか、霊感だとか、そんなのがあるなんて話、今まで聞いたことが無かったからだ。 むしろそう言う話を酷く嫌がって、話によっちゃマジギレするから話題に挙げなかったし、 もしかしたらトラウマとかあるのか、単純に嫌いなんだろうって勝手に思ってた。 俺「俺初めて聞いたぞ、お前がそういうのに詳しいなんて」 M「俺がそう言ったら、お前等「夏休みは皆で心霊スポットとか行こうぜ!!」 ……とか、ぜってー言い出しただろ」 否定できなかった。 K「まぁそうかもしれねぇけどよぉ。……でも、お前そういうのが大嫌いつってたじゃん」 M「あぁそうだよ。こんなのは知らなくても良いし、知っても良いことねぇから言わなかったんだよ」 Mが言いたいことは分ったし、本人の顔色見てたら冗談も言えなかった。 M「……で、だ。もうこうなったから言うけどよ。ヤバイぞ。あれはヤバイ」 K「つーか今のお前の顔見て、それ以外のコメント浮かばねぇよ。……クソ」 俺「なぁM。Kが言ってた、ナンパして出来た彼女がその……幽霊とか、そう言うのなのか?」 Mはゆっくりと顔を横に振った。 M「もしかしたら、そうかもしれないけど、でも多分……違う。 それよか、むしろ後ろの声がヤバイと思った」 K「……後ろの声? ○○ちゃんじゃなくて?」 M「お前と、その彼女の話は普通だったんだよ。聞いてる分にはな。 段々後ろの声がデカクなってきて、マジでヤバイって感じたんだよ。 俺、こういう直感だけはマジで信じてるし……当たる。だから切らせた」 あれは、そう言う意味だったのか。 K「で、どうしろって言うんだよ……マジで幽霊だったらシャレになんねーじゃねぇか」 俺「折角出来た彼女が幽霊じゃ、確かになぁ」 K「確定してねぇっつーの」 M「……なぁD(俺)、お前の爺さん、そう言うのに詳しかったよな」 確かに俺の爺さんはオカルトやら、そう言う話に妙に詳しい。 もしかしたら爺さんならなんとかしてくれるかもしれない。 無責任ながらも、俺はそう思った。 俺「あ、ああ。まぁな。確かに爺ちゃん詳しいけどよ」 M「今、家に居るか? ……俺だけじゃどうしたら良いかなんかわかんねー」 俺「それなら大丈夫だ。爺ちゃん、年中家のネコと戯れまくりだから」 M「冗談はヨロシイ。……解んないまま変にヤバイ事になってもまじぃだろ。話だけでも聞いて欲しいし」 俺「……だな。じゃーこのまま、ウチに来るか」 KとMは頷いて、俺達三人はチャリで俺の家に向かった。 俺「ただいまー」 爺ちゃ「おうお帰り」 K・M「お邪魔しまーす」 俺「あ、爺ちゃん爺ちゃんっ」 居間からひょっこりと爺ちゃんが顔を出した。 爺ちゃ「どした顔色変えて。ん……?? (Mを見て)具合悪いんか?」 Mの顔を見て爺ちゃんの眉間に皺が寄ったのを良く覚えてる。 確かにMは公園を出てからも顔色は悪いままだった。 M「あ、ちょっと……」 俺「爺ちゃん爺ちゃん、ちっと聞いて欲しいことがあるんだけど」 爺ちゃ「なんじゃ。……妙な厄介事か?」 俺「そうそうそうそう。んでさ――」 爺ちゃ「ここで突っ立っても仕方が無ぇ。居間に来い」 俺「あ、うん」 居間で、テーブルを挟んで俺達三人、爺ちゃんが真向かいに座る形になった。 その間も爺ちゃんの視線は真ん中に座ったMに注がれてた。 それで、俺が三人を代表して言おうとしたら爺ちゃんが先に口を開いた。 爺ちゃ「……M君のぉ顔色わぁるいっつーこたぁ、アレか。 変なモン、見かけただけじゃないんじゃろ?」 俺「あ、うん。そうなんだけど……」 Mは正座をして姿勢を正すと、爺ちゃんの事を真っ直ぐ見据えた。 M「あの、俺の隣に居るKが最近、山で知り合った女ができたんです」 爺ちゃ「うん」 M「それで、その彼女と電話で話していたんですけど……。 俺、それ聞いてて電話の後ろの声がヤバイって感じたんです」 爺ちゃ「ふぅむ。後ろの声……男か、女か?」 M「いや……分りませんでした。あれ、人間じゃないって思っただけで……」 爺ちゃ「もう無理に言わんで良い。なまじ解るだけに、言うのも辛いじゃろ」 Mは一度だけ頷いて、それきり口を閉じたまま黙りこんだ。 爺ちゃ「K君」 K「は、はい」 爺ちゃ「その電話、今でも繋げるか?」 K「……あ、はい。出来ますけど」 俺「え? ……って爺ちゃん、繋げるん!?」 爺ちゃ「だぁっとれ。聞いた限りじゃ、(K君の元には)恐らくすぐには来んわ。 K君の爺さんとして出てやるから安心せい。ま、それでマトモな ヤツが出なかったら大当たりじゃ。話はそれからじゃの」 マジでこの時は爺ちゃん、何を根拠に大丈夫なんだよぉって思った。 普通掛け直そうなんて思わないし、嫌です、そんな霊界ロシアンルーレット。 そうこうツッコミを心の中でしている内にKはケータイを取り出して、番号を出した。 爺ちゃんはケータイを受け取ると、それを耳に当てた。 俺達は一言も喋らないで、爺ちゃんに視線を注いでいた。 爺ちゃ「あ、もしもし?」 電話が掛かった。 爺ちゃ「ワシ、○○K○の祖父の銀蔵と申します。 孫が何時もお世話になっているようでして……えぇ、はい、あぁいえいえ」 俺(ふつーに会話してるぞ!? 幽霊じゃない?) K(それじゃあ……って、どうなんだ?!) M(……黙ってろ) 暫く話して五分ぐらい話を持たせただろうか、爺ちゃんが突然切り出した。 爺ちゃ「あの……大変失礼なんですが、最近、貴女や、 ご家族の方で良くない事がありませんでしたか? えぇ、はい」 爺ちゃ「あぁーなるほど。いえ、私そう言うのに少々詳しいものでして、えぇ。 もしよろしければ、ちょっと直接お会いしたいのですが……ああ、はい」 爺ちゃん凄ぇ。と、思っているのも束の間、 爺ちゃんは何か書くようなモノを持って来いと俺にジェスチャーをした。 俺は鞄の中に入ってたノートとシャーペンを取り出すと、爺ちゃんの前に置いた。 爺ちゃ「えぇ、いえいえこちらこそ。はい、それでは……。 ○○市、○○の……えぇ、332……えぇ、あ、はい。 と言うと、あの辺りの住宅地……えぇ、はいはい。では、 す ぐ に 向 か い ま す の で。 ……その方が宜しいでしょう、えぇ、はい。では」 そこまで言って、電話が切れたらしい。(切り方を爺ちゃんが知らなかった) ケータイをKに返すと、爺ちゃんは腕を組んで唸った。 爺ちゃ「……確かに拙いのぅ。じゃがK君じゃないようじゃ。 電話の彼女が狙われておる」 K「えぇっ!? ○○ちゃんが……じゃあ」 爺ちゃ「電話に出た女子。聞いた限り間違いなく人間じゃ。問題は……」 M「その後ろのヤツ、ですか……」 爺ちゃ「うむ」 俺「でも爺ちゃん。直接会いに行くって言ったって、 爺ちゃん霊能力者じゃないだろ? どうやってやっつけるん?」 爺ちゃ「伊達に長く生きとらん。力が無くとも祓う方法はちゃんとあるわい。 そんなことでグダグダ言うておったら坊主が幾らおっても足らんぞ」 俺「じゃあ、どうやって……」 爺ちゃ「作法に則り、然るべき方法で執り行えば半分は大丈夫じゃ。 残りの四分の一を除けば、もう残りも力押しで何とかなる」 M「その、残りってのは……」 爺ちゃ「それは……正名は知らんが、★★(聞き取れなかった)じゃ。 どうしようもなく、ただ穢れ(死の概念らしい)を撒き散らすモノじゃよ。 ま、口を利けるモノならそういうことは無いじゃろ。★★はそんな暇さえ与えてくれん」 俺「それで、場所は聞いたみたいだけど、どうやっていくの? 母ちゃんはまだ帰ってこないし。父ちゃんはもっと遅いぞ」 爺ちゃ「うーむ……。何か、方法は無いか?」 爺ちゃんがチラっと俺達の方を見た。 M「んー……。あ、そう言や……」 俺「ん?」 M「K。(Kの)Y兄貴に乗せて貰えないか? 車持ってたろ」 K「あーそう来るか。んー……少し時間掛かるかもしれないけど、多分大丈夫」 そう言ってKはカチカチとY兄貴にメールを送り、 二十分しない内にY兄貴の4WDがウチに来た。 Y兄貴「うぃーっす。あ、どーもご無沙汰してます」 爺ちゃ「おう。ちと大切な用事が出来ての、ご足労願った訳じゃ」 Y兄貴「いえいえいえ。ウチのKの為にすんません。んじゃ、乗ってください」 ……まぁ、俺達も当事者ってことで連れ込まれたわけで。 爺さんがメモった住所を頼りに発進。買い物と人づてに聞いた所為か、 Kの彼女の家に着くまで二時間ちょっと掛かった。 流石にもう日も暮れて、車のヘッドライトで道路を照らした頃に到着。 とりあえず
by febaly
| 2006-12-03 21:54
| 気ままな幻想
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